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辰巳 断罪

Author: 雫石しま
last update Last Updated: 2025-08-24 06:08:58

有罪宣言 仙石吉高

吉高がネクタイを締め、出勤の準備をしていると、突然インターフォンが鋭く鳴った。朝の静かなリビングにその音が響き、一瞬手が止まる。時計を見ると、まだ七時を過ぎたところだ。誰だこんな朝に、と眉をひそめながら、吉高はモニターを覗いた。

そこには見知らぬ男の顔。鋭い目がこちらをじっと凝視しており、その強い眼差しに吉高は一瞬たじろいだ。知らない顔だ。営業か、はたまた何かトラブルか。心臓が少し速く鼓動を刻む。だが、放っておくわけにもいかず、意を決して通話ボタンを押した。

「・・・・・ど、どちらさまでしょうか?」

声がわずかに震えた。

「私、東京の佐倉法律事務所から参りました、辰巳と申します。」

「とう、東京?」

吉高は思わず繰り返した。東京からの来訪者など、普段の生活ではまずありえない。頭が一瞬混乱する。

「仙石さまの弟、大智さんの同僚です。」

その言葉に、吉高はほっと胸を撫で下ろした。身内の知り合いなら、少なくとも危険人物ではないはずだ。大智の名前が出たことで、緊張が少し解けた。きっと仕事絡みの話だろう。弟が何かやらかしたのか、それとも単なる伝言か。考えを巡らせながら、吉高は玄関の鍵を外し、ドアを開けた。だが、その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

目の前に立つ辰巳は、想像以上の威圧感を放っていた。背が高く、黒いスーツに身を包んだその男は、まるで映画の悪役のような雰囲気を漂わせていた。鋭い目つきはそのままに、口元には微妙な笑みが浮かんでいる。吉高の心に再び不安がよぎる。

「今日はどのようなご用件でしょうか。私はこれから出勤でして」

吉高は平静を装いながら、早く話を切り上げようとした。スーツのポケットに手を入れ、急いでカバンを手に取る準備をする。だが、辰巳は一歩踏み出し、静かな声で言った。

「この件についてお心当たりはございますか?」

その言葉と同時に、辰巳の手がスッと伸び、目の前に一枚の写真が突き付けられた。吉高の目がその画像に釘付けになる。そこには、寝室での淫らな姿が映し出されていた。吉高の顔から血の気が引いた。頭が真っ白になり、喉がカラカラに乾く。

「こ、これはどうして・・・・・・」

声がかすれ、言葉が途切れる。写真を握る辰巳の手は微動だにせず、まるで吉高の動揺をじっくり観察しているようだった。

「奥さまのご依頼で伺いました。ご一緒願えますか?」
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